内に飼い慣らす怪物 哄笑とともに若葉を吹くこの街で

松野志保『Too Young To Die』(2007年)

若葉、嫩葉、青葉、新樹、新緑。
初夏の樹樹の緑をあらわす言葉はいくつもあり、それぞれすこしずつ印象がちがう。
若葉というと一番やわらかな印象があるが、初夏のこの時期は椎の花などの樹の花の咲く時期でもあり、樹樹はメタリックな感じの黄緑色に輝いていたりする。
そんな樹樹が風に葉をうらがえすさまを見ていると、目がくらむような、もの苦しい気持ちになることがある。

笑いはときに武器であり、凶器である。
電車に乗り合わせた少年少女たちの笑い声がうるさくてたまらないことがあるが、仲間内にいてそのテンションについていけない場合は、もっとつらいだろう。

では、一首の、哄笑、とは誰の笑いなのか。
若葉をうらがえして吹く風のなかで、主人公はきっと、自分をつつむ世界全体から笑われているような気持ちなのだ。
そして、こころの内に、いつか世界に牙をむく自分だけの怪物を育てはじめる。

若者がみずからのうちに凶暴なものをためこむのは、いまの時代にかぎったことではなく、内に蓄えられたエネルギーは社会や文化を変えてゆく原動力になることもあった。
しかし、怪物が怪物のまま街頭にあらわれて、理不尽な血を流すような事件が昨今は多い。
歌集には、はっきりしたストーリーはないものの、近未来の市街戦を幻視するような耽美的な連作がならぶ。
そうした連作は、周波数のあわない読者をこばんでしまう印象もあるが、一首一首の歌からは、現実の世界を映す痛ましい普遍性を読み取ることもできる。

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