死者は使者 たしかにそうだ桐の花遠く揺らして風の吹きゆく

『燕麦』吉川宏志

 「死者は使者」とふと言い出だし、すぐに「たしかにそうだ」と自分でそれを確認している。その思考の中身はつまびらかではないが、しかしこの言葉によって、作者の中には自問自答の時間があったことが容易に想像できる。巧みな切り返しというべきだろう。そこから一首は「桐の花」の情景に移ってゆく。桐は高木となる木で、初夏の頃に淡紫色の美しい花をつける。静かな雰囲気の花だが、背の高い木なので遠くからもよく見えるのである。その梢の桐の花が風に吹かれて揺れている光景を見つめつつ。作者の胸には親しい死者が遠い世界からの使者のように訪れていたのだろう。「ゆうぐれになれば見えくる電線に燕は黒き背(せな)を反らせり」とも歌っている。六月は死者が近づいてくる季節でもあるようだ。二〇一二年刊行の第六歌集。