斎藤史『ひたくれなゐ』(1976年)
9月のはじめ、夏がいよいよ終わる。露がおりはじめる季節。昼間は暑いときもあるけれど、確実に空が冷え始めているのを感じるときである。
「白露」は二十四節気の<処暑>と<秋分>の間の頃。夏から秋へ、季節のかわりめの、なにか忘れものをしたような欠落感とかがやく寂しさを、「白露」という言葉がぴったりいい得ている。
「すがすがとすこしさびしく」にも、美しい季節の移ろいへのおもいが託されている。
「白露」という言葉を、サ行音によってあざやかに披いた、という気さえする。
もう美容院に行って髪を整えることもなくなった母。
そんな老齢の母のそばにそっとよりそっているしずけさと、生命への厳かな愛が、この歌にはある。
母の銀いろの髪。あまり伸びすぎては世話がしにくいのもあるだろう。子がその髪を切る。
髪が母と子をあざやかに強く結びつける。
髪を切る鋏の音が、胸にひびいてくるようである。