さいかち 真


球を中に一つに動くルーズ・スクラムこの時の間を心張り来る

松村英一『初霜』(1936年)

 

「ラグビー試合」と題した五首の中から四首めを引いた。昭和八年の作品である。ただ「スクラム」と言うのではなくて、「ルーズ・スクラム」という言葉が先にあるから、四句目の「この時の間を」という言葉が生きてくる。

ラグビーは緩急の差が大きいスポーツである。動く時には一気に試合が動き、得点が入る。スクラムの時は、フォワードの選手が組み合って押し合い、試合がゆっくりと再開される時間帯だ。観客は、次に何が起こるかと固唾をのんで見守っている。

掲出歌の結句の「心張り来る」というのは、いかにもうまく言ったもので、ラグビーのスクラムが持つ相撲の立ち合いに似た緊張感を、選手と観客が一体になって感じ取っている様子を一言で表現している。ほかの四首も読みたくなったのではないだろうか。

 

抜きかへしトライと見えしたまゆらにタツチ・ラインに球ころがりぬ

ライン・アウトの球待つ選手汗にあえ息はずむ顔をうちならべたり

フオワード・パスダツシュダツシュ攻め入るを防ぎはかねてただに揉みあふ

球を中に一つに動くルーズ・スクラムこの時の間を心張り来る

フルバツクあやふく受けて蹴り上げし球に向かひて皆走り出づ

 

どれもラグビーの試合の見所をコンパクトに凝縮したような歌になっている。一首目は、反転攻勢をかけて得点したかと思う間に、球がコーナー直前でこぼれてラインを割ってしまったという歌。二首目は、「汗にあえ」で小休止、「息はずむ顔をうちならべたり」と顔に焦点を合わせながら畳み掛けてゆく描写が効いている。外に出たボールが投げ込まれるのを、ずらりと並んで待ち受ける選手たちの顔。みんな汗をかき、息を弾ませている。三首目は、がんがんぶつかって攻めて入って来る敵をかろうじて防ぎとめて、揉みあいになっている様子。四首めは掲出歌。五首目は、「フルバック」が自陣からクリアしたボールを、敵味方の選手たちが一斉に追う様子を「球に向かひて皆走り出づ」と、簡潔に言った。

正岡子規の野球の歌などは、学校の教科書に載るぐらいだから、多くの人に知られているけれども、上の作品は、一般にはほとんど知られていないだろう。日本でラグビーを広めたのは、慶應大学で1899年から1910年まで英語を教えラグビーをコーチしたクラークという人物だそうだ。2019 年、日本はラグビー・ワールドカップのホスト国となる予定で、今後の盛り上がりが期待されている。松村英一は、明治22年12月31日生まれ。日本全国を歩き回った人で、登山を好んだ歌人である。きっとスポーツマンの気持ちもよくわかる人だったろう。