松村 由利子


あと何を買ったら僕の人生は面白くなり始めるのかな

                 辻井竜一『遊泳前夜の歌』(2013 年)

 

何かを買って得られる幸福感というものが、どんどん小さくなっている。気持ちや感情は数値化できないので比較は難しいが、乗用車や家電製品を購入したときの昂揚感は、高度経済成長期の半分か、それ以下になっているのではないだろうか。

数年前、年下の女友達とスペインを旅行したとき、フラメンコ洋品店であれこれ買っている最中に、彼女が「最近、物欲が衰えているんですよ~。トシかしら」と言うので笑ってしまった。物欲の衰えは、もしかしたら加齢のせいではなく、時代の雰囲気を感じとっていたせいかもしれない。人々の消費の対象はもはやモノでなく、意味や物語といった情報へ移行しているからだ。

「あと何を買ったら……」と自問しているように見えて実は、何をどれほど買おうが、そのことによって自分の人生が「面白く」なったりはしないことを作者は重々わかっている。一首全体で反語的表現になっているのが、この歌の巧みなところだ。

こうした時代感覚を詠うときに、口語表現は力を発揮する。「あと何を買うべきわれか人生をより面白きものとせんため」なんて重々しくしたら、何のことかさっぱりわからなくなってしまう。最後の「~のかな」の不安そうな口ぶりに作者の若さが滲み、読む者の胸を詰まらせるのだ。もう右肩上がりに経済が発展する時代ではないこと、それに代わる新たなシステムを私たちがまだ見出せないでいることも、ひしひしと感じさせられる。