松村 由利子


「おぼろ月夜」小声で誰と歌ひしか昼は絵の具のいろの菜の花 

       横山未来子『水をひらく手』(2003年)

 

「朧月夜」は文部省唱歌のなかの傑作の一つである。歌詞のイメージと響きの美しさは際立っており、アフフタクトの三拍子がえも言われぬたゆたいを作りだす。

この唱歌のイメージを最初に打ち出した一首は、本歌取りといってもよいだろう。まず、歌のメロディーを聴覚に訴え、次に菜の花の黄色を視覚で描いてみせる。しかも、「昼は絵の具のいろ」と、屈託のない明るい黄色を出して、言葉では直接表していない「夜」の色を想像させるところが巧みである。

唱歌の歌詞にある「里わの火影も、森の色も」の「里わ」は人里のあたりを指す。ほんとうは「里曲(さとみ)」というらしいが、この歌では「わ」の方がやわらかくてよい。ともあれ、こうしたさまざまな「色」が唱歌から喚起される効果を、作者はよくよく分かっているのだろう。霞んで見えるおぼろ月夜の情景が、「絵の具のいろの菜の花」と対比され、一緒に歌った思い出が回想される―― という重層的な構成になっていて味わい深い。

「菜の花色」という色名は比較的新しいようだ。人々は菜種油には古くから親しんでいて、グリーンがかった黄色を「菜種色」「菜種油色」と呼んでいた。こうした色名も「朧月夜」の歌も、長く残ってほしい。