松村 由利子


ユトリロの白き鬱もて立てる樹々白樺冷えて湖にゆらぎつ

         青山汀『白木柵(ピケット・フェンス)の街』(2014年)

 

「白き鬱」という言葉から、ユトリロの生涯をよく知る作者であることがわかる。モーリス・ユトリロの「白の時代」は、彼の画家としての絶頂期とされるが、それは彼が精神を深く病み、アルコール依存症に苦しんだ時期であった。

幼いころから体が弱く、精神が不安定だったユトリロについて、「母親は奔放でわが子をかえりみなかった」「生まれてまもない息子の世話を祖母にまかせた」と非難めいた書き方をした伝記や評論も多い中、若桑みどりのみが「赤ん坊がいたら、一分でも働けはしない。働く女が誰かに子供を預けるのは当たり前のことである」(『女性画家列伝』岩波新書)と、私生児を生んだ母親を擁護している。

ユトリロの母、シュザンヌ・ヴァラドンは、世紀末のモンマルトルで、モデルをしながら絵を描いていた。12歳のころから酒を飲むようになった息子を、少しでもアルコールから遠ざけようと絵筆を握らせたのは彼女だった。

この歌の作者は、湖畔に立つ白樺の冷たい白から、ユトリロを連想した。「冷えて」には、精神を病み暴力をふるった画家の孤独を、痛々しく思う気持ちが感じられる。「湖にゆらぎつ」というのは、湖面に映った白樺を表しているのだが、湖のほとりの白樺と湖面の白樺は、美術という道を選んでしまった母子が互いに見つめ合う姿のようにも思えてしまう。