松村 由利子


暗緑の森から森へ続きゐる点線をつないだら く・ま・ぐ・す

        石川美南『離れ島』(2011年)

 

どうも惚れっぽくて困る。ちょっと前には、反骨の絵師・喜多川歌麿、その前は語学のセンスに優れていて金遣いの荒かった野口英世にハマった。南方熊楠も惚れた男の一人なので、この歌には「やられた!」と嫉妬にも似た思いを抱いた。

熊楠という人は、ひと言で括ることができない。米国留学中にキューバへ行き、独立戦争に参戦したという「伝説」が生まれたこと、調べもののため大英博物館へ日参し、暴力事件を起こしてしまったこと……彼の行動、気質には何かしら過剰なものがある。そのあふれんばかりのエネルギーで、粘菌の研究に没頭した。

歌の作者も、熊楠について詳しいのだろう。粘菌は、枯れ木や枯れ葉、森の地面などに生息する。「森から森へ」続いている不思議な「点線」をつないだら、「く・ま・ぐ・す=南方熊楠」になったという、機智に富んだ表現が楽しませる。未知の粘菌を求めて森を歩きまわる熊楠の姿が、何とくっきりと浮かび上がることだろう。

「点線」をどれほどリアルに思い浮かべられるかで、歌の印象は随分違うと思う。私はこの歌を読んで、アフォーダンスの実験を思い出した。人の関節十数カ所に光点を付け、暗い所で歩いてもらうと、見ている人には、静止しているときには無意味に見えた光点が、年齢や性別まで類推できる一人の存在として知覚できるというものである。作者が「く・ま・ぐ・す」と読み取った瞬間の歓喜を、私も深く味わった。