折り畳み傘で造りの強い傘拡げて差して吹雪く道を行く

奥村晃作『造りの強い傘』(2014年、青磁社)

 折り畳み傘というものは便利なものである。1928年にあるドイツ人が発案して、特許を取得し、その特許の許諾を受けたクニルプス社という会社が製造販売を始めたと言われている。同社は現代でも折り畳み傘の世界のトップブランドである。日本でも同様の製品が開発製造されたが、かつては特許の関係でかなり高価だった。

 ビニール傘が、外出先で急に雨に降られたときにコンビニやキオスクなどで買うものという性格が強いのに対し、折り畳み傘の方は、その携帯性から、外出先で雨に降られる可能性がある時にバッグの底に忍ばせておくものという印象が強い。親骨の素材はステンレスだと強いが重い。アルミ製は軽いが折れやすい。グラスファイバー製は軽くて折れに強く、カーボンファイバー製は更に軽くて丈夫である。ただし、カーボンファイバーはゴルフクラブのシャフトや釣り竿、航空機の部品などにも使われる先端素材であり、それなりに高価である。

 カーボンファイバーを使った折り畳み傘は高価でも確かに「造りの強い傘」であろう。この一首で、作者はその「造りの強さ」にいたく感動しているようだ。考えてみると、昔は傘というものは結構貴重な物であり、家屋全員の分があるという家は少なかったのではないだろうか。雨が降ると勤めに行く父親、学校へ行く子供たち全員の傘がなくて、誰かが濡れて行くというような悲しい話がよくあった。壊れても必ず修理して使っていた。それがいつの間にか使い捨てに近い商品になったのは、安価なビニール傘、無くしてもさほど苦にならない折り畳み傘の出現などによるものだろう。作者は傘にまつわる自分の小さい頃のことを思い出しているのかも知れない。

 「造りの強い傘」というかなり散文的な言い回しに妙な面白さがある。「拡げて差して」というような動詞の連用形を「て」で繋いでいく表現方法は、一般的には敬遠されるが、ここではその拙さが逆に強直さとなっている。まして、その傘を差して行くのは「吹雪く道」なのである。吹雪の道を「造りの強い」折り畳み傘を短く持ちながら、身を斜めにして一歩一歩歩んでゆく作者の姿を思い浮かべることができる。この一首は、歌集のタイトルともなっているので、作者としても思い入れの強い作品なのであろう。

   正面から見るとやっぱし違うわな一味違うシェパードの顔

   むしけらと馬鹿にするけど蚊や蟻は生き継ぐであろう他の種滅びても

   尺玉を固め打ちする如くにも雷鳴響く夏黒き空