母はよく讃美歌を唱ひしが〈ここはお国を何百里〉などもうたひぬ

水島和夫『田端日記抄』

(2016年、六花書林)

 

短歌は歌というくらいですから文芸のなかでもっとも音楽に近いジャンルと思いますし、じっさい音楽好きの方は多いでしょう。歌人の作風のちがいは、その人の好む音楽の種類によるかもしれません。クラシック、ジャズ、ロック、近年はラップとか。

讃美歌を歌うのは信仰があるか、ないとしてもキリスト教への関心がある人と考えられますが、一般人が軍歌を歌うのは積極的な愛国心からではありません。流行歌を口ずさむのと同じことです。

ここはお国を……というイントロダクションと、その哀愁あるメロディは聞いたことがあっても、さすがに全貌は知らないので少し調べると、この軍歌「戦友」は日露戦争時にヒットしたもので、作詞者の真下飛泉は与謝野鉄幹に師事したとのこと。

明星派のロマンティシズムを通じて兵士の運命を語る詞、その悲哀にはいまでも惹かれます。歌のこわいところです。

あってはならない情景も、七五調のリズムに乗ると甘美なものになります。音楽に罪はなくとも、その両義性を認識しておこうとする心が、この一首にあらわれています。

 

勝ち方を習はざる子はよわき子を執拗につひになぶりやめざり

いづれ吾も要介護者にならむ日の来るべし楽しみに待たむ

怒り続けることは尊し疲れぬやうやはらかき知性保たむ

 

歌集には家族の不幸への嘆きや現政権への怒りがはっきりうたわれていますが、自身の感情や信念について検証する態度をともなうとき、歌の説得力は増すようです。