中島裕介『oval/untitleds』(KADOKAWA:2013年)
(☜2月22日(水)「ゲーム機の世代スイッチ (5)」より続く)
◆ ゲーム機の世代スイッチ (6)
「ご先祖さまComing!」というユーモアの溢れる連作から引いた。連作は次の歌に始まる。
築四十年六畳一間風呂無しにご先祖さまがやってきましたご先祖さま曰く「なんどいな、おにゃのこはおらんのかいなおにゃのこは?」
古びた部屋にはいかにも何かが化けて出てきそうだが、やってきたのは軽いノリのファンキーなご先祖様である。ありがたいことに狭い部屋のあれこれを見ては、ひと言余計なコメントをくれる。
ご先祖さまは、部屋の隅にあった体重計を見て任天堂の「Wii Fit」(正確には「Wii」用ソフトウェアの名称であるが、操作端末「バランスWiiボード」を指すと解釈した)だと勘違いする。当時、はやっていたのだろう。流行に詳しいあの世のご先祖さまに対して、築四十年六畳一間に住むこの世の人物の方は、物をほいほいと買えるわけではない。体重計はたまたま「Wii Fit」に似ていたのか、それとも「Wii Fit」にあえて似せた商品をあえて買ったのか分からないが、自己中心的なご先祖さまの対応にはご苦労様ですと頭が下がる。
家庭用ゲーム機分野において、SONY陣営に押され気味であった任天堂の起死回生としての「Wii」。特有の形状のコントローラーを振って遊ぶという新しいスタイルから、これまでにない客層を摑み、大きくヒットした。いたずらに高性能であることを求めるのではなく、すでに広くある技術を用いて新しい遊びを生みだすことは、大きな英断だったであろうが、ゲームウォッチの父である横井軍平氏の「枯れた技術の水平思考」という哲学がまぎれもなく任天堂に引き継がれている証とも言える――というように、ゲーム世代の多くは、個々のゲームの面白さ云々だけではなく、ゲーム機やその製造会社の栄枯盛衰をも楽しんでいたように思う。
『oval/untitleds』には、ゲームの世界に取材した歌がいくつかある。
8bitのマリオのように強張った夢より今日は256色 「untitled 3」ふっかつのじゅもんをいくつ囁けどへんじがないただのしかばねのようだ 「交」「ニフラム!」と囁やけば夏 笑ってる奴だけ船に乗せてやろうか 「untitled 7
8ビットCPUのファミコンにおいて、16×16の桝目を基本に描かれていたドット絵のマリオ。ゲームカセットにメモリーバックアップがない時代のドラゴンクエストの「ふっかつのじゅもん」。同シリーズの最近の作には見られなくなった「ニフラム」というささやかな呪文。
これらの意味するところが通じない若い世代も多いだろう。しかし、いつかは必ず古くなるということも、私たちが愛してやまないゲーム文化のひとつの大切な要素のように思うのである。
(☞次回、2月27日(月)「ゲーム機の世代スイッチ (7)」へと続く)