アダムの肌白人は美はしき白といひエチオピアの子は褐色といふ

春日いづみ『アダムの肌色』(2009年・角川書店)

 

アメリカ大統領選以来、難民問題の動向が日々刻々と、世界中に流れ続けている。難民問題は政治や経済だけでなく、民族や歴史について、センセーショナルに、また切実に問題を突きつける。突きつけられて考えるのだが、考えつつ、何処かで堂々巡りがはじまり、思考停止状態になってしまう。この一首は、それに関わって、端的にまた簡潔に歌われている。わたしは、思い出して、ふーむと考える。

 

『アダムの肌色』の「あとがき」によれば、『約束の地』という映画の一場面に高校生の弁論大会があり、「アダムの肌は何色か」というテーマが出たという。歌はそのシーンを描いたもの。神が初めて創った人間アダムの肌の色をどのように考えるかは、民族や信仰にとって大問題。聖書の圏外にいるわたしには、論じて結論が出ることとも思えないが、論議の過程に生動する思想によって世界は動いているのだとも思う。

 

春日いづみは、松田常憲・春日真木子に続く三代目歌人。作品は伸びやかに短歌定型にそいながらも、知的で上質な西洋文化の香をもっている。反対にいえば、知的でありながら窮屈でない。

 

泣けば抱く抱けば揺するよわが腕しんじつ赤く肉弾む児を

しやり掴む前に一拍手を叩く寿司屋の親爺のリズムも美味し

共存の策は「住み分け」電気柵森の奥まで張りめぐらさる