江戸 雪


こともなく陽の照れる街を須臾に見て坂をくだりをり逢ひにゆくなり

安立スハル『この梅生ずべし』(1964年)

なんとなく気持ちよく坂を下っている歌かとおもえば、結句「逢ひにゆくなり」で一気に相聞のにおいが広がる。
空に虹をみつけたときのように胸がざわっと鳴った。

「こともなく陽の照れる街」は、ざっと読めば、陽がふりそそぐ平和な街、という感じか。坂を下っているのだから、高いところから眺めているということになる。
これからきみと逢う場所。坂の下の街。

「須臾」は<しゅゆ>と読む。暫く、といった意味だ。今ではあまり見ることも聞くこともなくなった言葉。今この歌を読むと、この「須臾」は独特の音を奏でていて、存在感がある。

しばらく、これからきみと逢う街を見下ろして、坂を下っていく。どんどん街が近くなってくる。きみとの時間に期待がふくらむ。下り坂によって歩みが速度を増し、逢いにいく気持ちを高ぶらせているようだ。
四句目の「坂をくだりをり」は、つい「坂くだりをり」にしたくなるが、「を」があると、歌の流れに起伏ができるのでやはり必要だろう。

簡潔な言葉づかいであっさりしているのに、言葉と言葉の間にふくらみがある不思議ないい歌である。