沢田英史『異客』(柊書房:1999年)
空を見上げ、そのはるか彼方にきらめく星々を想像する。その星ごとにも、この地球と同じように「空」のようなものがあるはずで、その彼方にはきらめく星々が――
歌の中に登場する物は「空」と「星」だけであり、上の句と下の句の半ばに折り目があるかのように反転して物事が語られる一首である。
ある星から空を通してその他の星へ、そしてそこからまた空を通して他の星へ、と視点を玉のようにして星の間でラリーするかのようであるが、せわしくはない。茫漠とした宇宙には「空」と「星」だけが存在するかのようで、むしろしんとした静まりを感じさせる。
歌の骨格は永井陽子のこちらの歌に近いものがあるだろう。
ひまはりのアンダルシアはとほけれどとほけれどアンダルシアのひまはり 永井陽子『モーツァルトの電話帳』
沢田の歌も永井の歌も、どちらも無駄なく言葉が削ぎ落とされた究極の短歌のように感じられる。
掲出歌は歌集『異客』の冒頭の一首であるが、掉尾を飾る歌がこちらである。
われらみな宇宙の闇に飛び散りし星のかけらの夢のつづきか
あれやこれやと思索する人間というものは、かつて砕けた星の見る夢なのかもしれない。だからこそ、ときには空の向こうの星を思い描いて、そこに思いを巡らせるのだろう。