栗木京子『南の窓から』(2017年・ふらんす堂)
三嶋暦というものがあり、毎年贈ってくださる人がいた。「カレンダーは『見る』、暦は『読む』」ものという。今日、11月7日は立冬である。立冬は二十四節季の一つ。暮しを支える農耕や牧畜また漁猟と、季節が密接に結びついて生まれた暦は、あまり季節を意識しないでも暮らして行けるわたしたちに縁の薄いものになってしまったが、三嶋暦を繰ってみると、まことに読むもの。実地に結びついた一年の時間構成は感動的だと思う。二十四節季は、立冬の後、小雪・大雪・冬至と続く。まだ本格的な寒さとまではいかないが、気象変化が冬の予兆として感じられる季節だ。
掲出の歌には「いつも行く美容室。シャンプーの上手な女性がいる」というコメントが付いている。シャンプーが上手いかどうかは美容室選びの重要項目である。しなやかな指先の動きが至福の時間をもたらすシャンプー上手に出会うと、本当に嬉しい。
「髪を洗う」でなく、「髪の根を洗う」といっている点が秀逸。「根」があるから皮膚感覚を刺激され、その皮膚感覚が「立冬」という季節を呼び起こす。カレンダーに記された記号的な言葉ではなく、体感として冬の到来を感じている。
助詞は「を」か「に」かと語らふ春の午後うたの岸辺にわれらつどひて
50%オフの値札はワンピースの腰のあたりに吊られてをりぬ
蟬の声消えたる闇に浮かびをりスカイツリーは深き根もちて
理系出身の作者は、女性としてのしなやかさと同時に、冷静で細やかな客観観察の目をもっている。両者が絶妙に均衡を保っている作者はそう多くいない。