本田瑞穂『すばらしい日々』(邑書林:2004年)
ここはまだ母のふるさと玄関の雪は掻いても掻いても積もる 「雨・風・月・雪」
「新潟」が作者にとってどのような場所であるかは分からない。上に引用した歌から考えると、自身が生まれ育った場所ではなく、母が生まれ育った場所なのであろう。これまでに体験したことのない雪が、暮らしてゆく場所に降り積もる。
そんな土地のさといもを料理する。その「ぬめり」は、これまで過ごした場所よりも、ずっと自然に近い環境であることが思い描かれる。そして、同時に自分をこの場所にからめとり、出ていかないようにする磁力のような力も感じさせる。
「しっかりとここで暮らして雪を見なさい」という言葉は、母の言葉であるようにも、新潟という土地そのもののが発する言葉のようでもある。歌集のなかで、時に母という存在は自然物と混ざりあう。
あたまから濃くなってくるゆうぐれの空はどんどん母に近づく 「とても静かな」
ここで暮らすことは、すなわち雪と生きていくこと――やさしい口調でありながら、さといものぬめり以上の拘束を求めてくる言葉でもあり、恐ろしくもある。
生きていく場所を人はどのように選ぶのだろうか。あるいは、〈どのように選ばされるのか〉といったほうが正しいだろうか。
どの土地にも、さといものゆめりのようなものがあり、雪のような人をその場所に閉じ込める力あるように思う。