薄翅に触れないように湯上りのおさなをタオルで包む 秋くる

富田睦子『さやの響き』(2013年・本阿弥書店)

 

日本女性の社会進出は遅れているとはいうものの、半世紀前に比べれば驚くほど意識が変わった。当たり前のこととして語られるようになったのである。近年、女性に働きやすい環境を整えよという声が高まった。悪くないと思う。反面、いわゆる専業主婦が育児の過程に遭遇するさまざまな局面への言及は、うすらいでしまったのではないかと思う。

 

『さやの響き』の作者は、主婦に徹し、身籠りから出産育児と、子どもに没頭している。振り返ってみると、このような濃密な時間は実に貴重であったと、わたしは思う。育児が、退路を断たれた現場で、実にさまざまな人間についての具体を学ぶ切実な経験であることは、介護と同様である。

 

掲出の一首は、ママさん奮闘中の心の襞を歌っている。「薄翅」は、子どもが内包する可能性であり、同時に脆く傷つきやすい何かであるだろう。「秋くる」が、感傷を程よく抑え、お風呂上がりの幼時をタオルで受け止めるときの、ちょっとした気持ちの翳りを掬いとった。

 

隣人に暑いですねと挨拶す剥がす間際の湿布の貌して

母が母を喪くしし年を数えつつゆうやけこやけを娘に歌う

分かち合うキャラメル身ぬちにほどけゆくママ友というかりそめの友

 

近所づきあいや、PTAのつきあいなど、特別に評価されることのない日常に、家庭をささえ、みずからを支えて力強く生きている女性たちの哀歓を忘れたくない。