青沼ひろ子『石笛』(本阿弥書店:2013年)
畳み掛けるような言葉の並びに、一体何事かと感じてしまう歌だ。すこし間をおいて、そうか病院で診察を受けている場面か、と気付く。
お酒は呑みますか? 煙草は吸いますか? 定期的な運動はしていますか?という医師の質問への答えが「お酒呑みません煙草吸いません運動しません」というわけである。
面白いのが、結語の「すいません」である。直接的には、定期的な運動をしないことに対して「すみません」と言ったのかもしれないが、一字空けておかれた〈歌の見た目〉から、どうにも、お酒や煙草をのまないことについても謝っているようにも思える。
医者の前で縮こまって何にでも「すいません」と繰り返してしまう姿が浮かび、そこにユーモアを感じる。
ユーモアのある歌をもう一首。
かみそりの刃に鉛筆を尖らせる剣豪宮本武蔵 まいる 「赤いひれ」
鉛筆の先端をかみそりで鋭く尖らせる内に、刀を手入れするような気持ちになったのか、自らを宮本武蔵のように感じはじめる。
この歌も結語が効果的である。「まいる」と言ったときには、すっかり身も心も剣豪だ。
紹介した二首のどちらにも、読者を笑わせようという意識は感じられない。本人はいたって真面目に出来事や気持ちを書き記しているだけのように思える。それが一層、ユーモアの度合いを高めるのだろう。