幼らの輪のまんなかにめつむれる鬼が背後に負わされし闇

永田和宏『無限軌道』(1981年・雁書館)

 

異界に住む異形の者たちを総称して鬼という。宿命的に大きな闇を負った者たちだ。輪になって鬼を囲む子どもの遊びは、はるかに遠い昔話の光景に思われるが、戦後間もないころ、わたしたち子どもは、原っぱや路地裏で、石蹴りやハンケチ落としやカゴメカゴメのような、元手のかからない遊びをしていたものだ。遊びとはいえ、輪の真中で鬼になったときの、世界から弾きだされたような孤立感は忘れ難い。

 

引用の歌は、『無限軌道』巻頭の連作中の一首。幼い時に失った母を主題に、物語化された一連である。母恋の歌ではあるが、情に流れることなく、遠く、幼児の自分を対象として見つめ描いている。連作の中で読むと、「負わされし闇」は、母を失った欠落感ということになる。しかし、それだけではなく、わたしは、もう少し広げて、人間存在が普遍的に負っている寂寥を見ているのだと読みたい。「負わされし闇」の内容は人によって異なるが、誰しも、それを引き受け対峙し補うべく生きているのではないだろうか。

 

カラスなぜ鳴くやゆうぐれ裏庭に母が血を吐く血は土に沁む

いくばくの雪もろともに降ろさるるいたく静かな底までの距離

ささくれて世界は暮るる 母死にし齢に近く子を抱きて立つ

 

同じ連作中の歌である。作者にとって大きな意味をもつ一連と思う。表現は抽象的ながら、「地は土に沁む」「底までの距離」「子を抱きて立つ」という硬質な認識が、鉄板に刻まれた鑿跡のようで、強い印象を残す。