大松 達知


照る月の位置かはりけむ鳥籠の屋根に映りし影なくなりぬ

                                 『子規歌集』(1959)

 

 正岡子規は、1867年10月生、1902年9月没。

  詞書に「六月七日夜」とある10首の連作が、土屋文明編の『子規歌集』(岩波文庫)の明治33(1900)年にある。つまり、満32歳の作。

 

 掲出歌の前にあるのは、

・ガラス戸の外に据(す)ゑたる鳥籠のブリキの屋根に月映(うつ)る見ゆ

・ガラス戸の外は月あかし森の上に白雲長くたなびける見ゆ

・紙をもてラムプおほへばガラス戸の外の月夜のあきらけく見ゆ

・夜の床に寐ながら見ゆるガラス戸の外あきらかに月ふけわたる

・小庇(こびさし)にかくれて月の見えざるを一目を見んとゐざれど見えず

・ガラス戸の外の月夜をながむれどラムプの影のうつりて見えず

である。

 

 寝たきりの子規が、時間の経過のままに詠んだ一連のようだ。病床の一点に視座を固定してあるところが、強みである。

 初め、鳥籠の屋根に射していた月光は、徐々に上ってゆく。ガラス戸に反射して見えなかったり、工夫をしてもらい(もちろん妹か母にだろう)見えるようになったりする。

 掲出歌では、少し前には鳥籠の屋根にあった影が、ふと見ると無くなっていることに気付いたという。そこから、月の位置が変わったのだろうと推測する。

 「位置」という客観的な漢語が普通に使われているところに、子規の新しさを感じる。もう110年前の作品。というか、われわれが思うほどには新しくなっていないのかもしれない。