皇后陛下御歌/今しばし生きなむと思ふ寂光に園(その)の薔薇(さうび)のみな美しく

皇后陛下御歌(2019年宮中歌会始の儀)


 

平成がいよいよ終わる。今日は朝からテレビを流しっぱなしにしているが、この話題ばかりである。普段、平成という時代を意識することはあまりない。むしろ過ぎ去ってある程度以上の時間を経てはじめて客観的に振り返れるのではないか。先日ある歌人団体の機関紙から、「平成を振り返る」というエッセイを依頼されて書いたが、現時点ではまだ総括するには少々早いというのが自分の率直な気分である。とはいえ、30年続いた平成が終わることへの感慨と、次の時代がより良くなってほしい期待はもちろんある。

 

掲出歌は、2019(平成31)年の宮中歌会始に出された皇后陛下の御歌。題は「光」であった。この歌の解説が宮内庁のホームページに載っており、

 

 

高齢となられ時にお心の弱まれる中、一夕、御所のバラ園の花が、寂光に照らされ、一輪一輪浮かび上がるように美しく咲いている様をご覧になり、深い平安に包まれ、今しばらく自分も残された日々を大切に生きていこうと思われた静かな喜びのひと時をお詠みになっています。

 

 

とある。歌意はまったくその通りである。具体的に歌を見ていくと、「今しばし生きなむと思ふ」という初句二句の率直な感慨にはやはり驚く。これは解説にもある通り、ご高齢になってあとどれだけ生きられるかに対する根源的な不安を反映しているのはもちろんである。と同時に、この先のあたらしい時代を見ておきたい一種の知的好奇心および責任感も投影されている。

 

三句の「寂光」は、仏教的には寂静の境地と真の智の光を指すが、この場合は安らかで静かな光という解釈でよいだろう。時間帯については直接歌には描写されていないが、やはりこれは夕方の静かな光を想起する。その光の中に、「みな」だから複数の薔薇の花を見た。観察眼が行き届いているのはもちろん、空間と時間を把握する感覚が見事である。何より、薔薇の一輪一輪がみな美しくかがやいている様を見て詠み手の心が動いたところに、読者の心もまた動く。