生沼義朗


本条恵/生け垣が羊の群れになる四月「大学通り」に咲くユキヤナギ

本条恵「春の羊はどこまでも」(「フワクタンカ79」・2019年)

 


 

 

前回に引き続き、「フワクタンカ」を取り上げる。今回の出典は今年の五月に刊行された「フワクタンカ79」、つまり最新刊である。「フワクタンカ79」には、1979(昭和54)年生まれの10人の各7首一連が掲載されている。今回は企画を山本夏子が、編集を大塚亜希が担当している。

 

 

四十代の男のからだ不埒なる夢よりさめてしばしさぐれば  栗原 寛
韓流スターに興味出でくる年頃になりしか美白のクリームを塗る  三原由起子
黄昏の町は第三国家である コロッケ買っておうちへ帰る  天道なお
いくたびも肩を震ひて手話ニュース845春の吹雪を伝ふ  澤村斉美
見えぬものばかり語つてゐた義父(ちち)を思ふ陽が落ち風寄するとき  佐佐木頼綱
命ってなんだろうねと納豆に玉子を混ぜて混ぜて朝食  大塚亜希
繋いでた手を離したらそのあとはわたしの好きな路地だけ歩く  天野 慶
歯みがき粉のツブツブちゃんと効いてるかわからない信じるしかないよ  工藤吉生
まひるまの月が沈んでゆくようにはじめに忘れてしまうのは、声  山本夏子

 

 

前回と同様に「フワクタンカ79」からも、掲出歌の作者以外の各人の作品を一首ずつ引いた。掲載順は、誕生日の早い順のようだ。ちなみに「フワクタンカ78」では、五十音順での掲載だった。10人の歌歴や所属結社が幅広いことと、作風のバリエーションが幅広いのはこの号でも同様である。

 

掲出歌の作者である本条恵は「未来」所属。本条の一連7首すべてに羊が詠み込まれるのは、今回の参加者である1979(昭和54)年生まれは、干支が未であることを踏まえている。

 

ユキヤナギはバラ科の落葉低木で、手をかけなくても育つことから公園や庭先などでよく栽培あるいは自生している。地面近くから幾本もの枝が枝垂れる形状に特徴があり、毎年3月から5月にかけて5弁の白く小さな花を枝全体に咲かせる。そのユキヤナギの生け垣にいっせいに咲いている白い花を「羊の群れ」と捉えた。40歳の節目の年齢を迎えた感慨や、未年生まれに対する愛着や一種の矜恃が背後にあるのは間違いないが、春らしい色彩や躍動感にあふれた表現であり、読者にあざやかな印象を残している。

 

「大学通り」は東京出身の自分は、一橋大学沿いのJR国立駅前から伸びている大通りの通称を思い浮かべたが、香川の高松にも同じ名前の通りがあるようだし、これは読者がめいめいに想像すればよい。ただ、大学通りを鉤括弧で括る必要があったかは多少疑問だが、強調したい作者の意図はもちろんわかる。「四月」は「ユキヤナギ」があれば、なかったとしてもそれほど解釈を揺さぶるものではないが、「四月」のすぐ下に「大学通り」が配置されることで、大学の新入生のイメージが顕つ。「フワクタンカ」に載った歌ということをあわせて考えると、若々しさや躍動感といった自分にはもはや失われつつある要素への率直な羨望も垣間見えてくる。

 

40歳と言っても、仕事も家族構成もみな違う。短歌の上でやってきたことも違うから、当然作風も異なる。そこに共通項を見出すような読み方は自分は基本的にしなかったが、それでも仕事や家族といったそれぞれの属性で中堅あるいは中核的なポジションを果たす実感は、濃淡の差こそあれ感じられた。

 

ツイッター上では、既に次回の「フワクタンカ」への動きも見られた。来年はどのようなメンバーで、そのような作品が読めるか、今から楽しみにしている。