生沼 義朗


斉藤斎藤/夫と剣と玉とはんこがもうひとつぞろぞろとゆくうしろから妻

斉藤斎藤「砂風呂の印象」(「短歌人」2019年7月号)


 

1週間以上前の話となってしまうが、10月22日は即位礼正殿の儀(そくいれいせいでんのぎ)が行われた。その日は今年のみ祝日なので私も妻も仕事は休みとなり、自宅でテレビ中継を見ていた。そのとき思い出したのが今回の掲出歌だ。

 

斉藤の所属誌「短歌人」7月号に掲載されたのだから、締切日から考えて製作されたのは5月上旬だろう。ということは、掲出歌に描かれている光景は5月1日に行われた剣璽等承継の儀(けんじとうしょうけいのぎ)と考えて間違いない。剣璽等承継の儀は歴史的には践祚(せんそ)と呼ばれる、要は皇位継承の儀式で皇位継承者が三種の神器のうちの天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)と八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を受け継ぎ、この儀式を経て新天皇が誕生する。ちなみに八咫鏡(やたのかがみ)の形代(かたしろ)は宮中三殿の賢所の神体であるため動かされない。

 

歌の景色としては文字通り、天皇と天叢雲剣と八尺瓊勾玉と国璽と御璽が列をなして宮中を行進しており、その後ろに妻つまり皇后がついていっているということになろう。なお、「はんこがもうひとつ」となっているのは、国璽と御璽の2種類の印章を指している。

 

一応剣璽等承継の儀の様子を映像で確認したところ、まず皇族が会場である宮殿正殿松の間に入り、次に天叢雲剣と八尺瓊勾玉と国璽と御璽を捧げ持った職員が列をなして入って来ている。それらをあたらしい天皇の前にある台に置き、一礼後に天叢雲剣と八尺瓊勾玉と国璽と御璽が退出し、次いで天皇が退出する5分ほどの儀式であった。なお今回の儀式は先代の先例にならい、皇族の参加は皇位継承権のある成人の男性皇族のみだったという。

 

となると、「うしろから妻」は作者のイメージが補われていることになるが、これは多くの人に共通するイメージでもあり得る。夫の何歩か後ろを付き従う妻の姿に日本的な夫婦像を良くも悪くも見出す人は多いだろうから。個人的意見を言えば、夫唱婦随という言葉は文字通り夫が提唱して妻が従う意味だが、夫唱婦随には転じて夫婦の仲が非常によいことを指す言葉として使われるところに日本の文化的蓄積を垣間見るようで自分は嫌なのだ。

 

それはともかく、この歌の眼目はむしろ「うしろから妻」であるとも言ってよく、ここに読者の固定観念を刺激し、考えさせるものが含まれている。独特の脱臼させたような口語文体で現実の情景を描く歌には社会や生活のリアルが濃厚に充ちている。その奥に斉藤斎藤の鋭い思索と問いがあり、読者はその問いを突きつけられているのだ。

 

11月2日の項目に書きましたとおり、体調不良のためリアルタイムでの更新ができませんでしたので、後日アップさせていただきました。お詫び申し上げます。)