暖冬の室内にて孵す紋白蝶複製モネをこえ曇りガラスに

長岡裕一郎「思春期絵画展」『現代短歌大系11』(三一書房:1973年)

 

ことしも暖冬だったが、さすがに冬に蝶が出てくることはなかったようだ。あくまで蝶は室内で生をきらめかせる。孵す、とあるが卵から青虫が孵るのではなくて恐らく孵化と羽化とを取り違えているのだろう。蛹から蝶になるのは羽化である。

いずれにせよ冬の室内で、しかも暖冬の折にようやく羽ばたいた白い蝶、その背景にあるモネは複製、そして外は曇りガラスで遠ざけられている。歌はだいぶ破調しているが、なにもかも作り物のガチャガチャした部屋の混沌を思わせるような韻律でもある。「紋白蝶複製」という傍目にはぎこちない句切れないし助詞の省略も、紋白蝶そのものが複製の作り物のように感じられて一首全体の印象を強めている。