吉田 隼人


刺青は沖に菫の色もてりはてしなく海にそそぐ雪片

椿實『歌集 海邊にて』(引用は『メーゾン・ベルビウ地帯 椿實初期作品』幻戯書房、2019年による)

 鮮烈な感覚と凝った舞台設定で戦後まもなく評価を集めるも、ついに作家としては大成することなく去った椿實(つばき・みのる)の歌稿から引いた。前衛短歌全盛期に、旧制高校時代から歌に親しんできた椿が詠んだ作品は、凡庸なものもないとはいえないが、やはり作家として示したのと同じ感覚のきらめきが随所に感じられる。

この一首は「刺青」がやや唐突で、降りしきる雪のことなのか、雪とともに天から振り下ろされる稲妻のことなのか、いまひとつ読み取れないが、青と菫いろとが重なりあって一種に独特の色彩感覚を与えている。そこに降る雪もまた青一色のなかで濃淡をつけるように機能して、絵画のようなつくりの歌である。同じ連作から、

限りなく青色かさね深みゆく海に溶け入り雪ふりそそぐ 同上

の歌を引いてみると、青に青を重ねて「海に降る雪」の主題をいかに美しく、鋭敏な感覚に忠実にえがきだすか苦心する筆つかいが見えるようである。