銀の燭かすかに吊し目覚めては寝いねては青き花食べにけり

西野昇治(引用は出口裕弘『澁澤龍彦の手紙』朝日新聞社:1997年による)

 前回に続いて、澁澤や出口の旧制浦和高校での友人から。この人は東大の心理学科に進むも、もともと希死念慮の強い人だったらしく自殺してしまったという。

歌には絢爛たるイメージと、ちょっとポーズのようにも見える狂気への傾きがある。「銀の燭」などいかにも作り物めいているが、作り物で取り繕わないことには耐えきれないような何物かが内面に巣食っていたのだと思う。「青き花」だけではノヴァーリスめくが、それを食べるというのも演技過剰でありつつ、同時に真に迫った狂気へのおびえを感じさせもする。宇野浩二は狂気に陥って薔薇を食べたと言われるが、その薔薇が(このころはまだ存在しない)青薔薇だったらよりいっそう陰惨で、そして美しかったことだろう。それもなりふり構わぬ姿勢ではなく、きちんと「銀の燭」まで灯して、食卓について食べるのであれば。