あなただけ方舟に乗せられたなら何度も何度も手を振るからね

馬場めぐみ「手のなかの色彩」(『短歌研究』2011年10月号)

 新人賞受賞作にはそこまで引かれなかったのが、受賞後第一作のこの歌に切実に引きつけられたのは、自分もそのころ似たような経験をしていたからか。掲載年を思えば、おのずとその種の体験がイメージされても来ようが、現実の出来事に結び付けなくても「何度も何度も手を振るからね」の果敢なさ、甲斐なさに胸を引き裂かれるような思いがする。

方舟に乗せられた側が必ず助かるとは言えないのかも知れないが、それにしても方舟から「何度も何度も手を振る」取り残された大切なひとを見る気持ちはどんなものだろう。一首としては取り残される側が主体になっているので「その後」がないが、方舟に乗せられた「あなた」には、何度も何度も手を振ったそのひとを喪ったあとの日々がある。いま、あらためて重い歌である。