吉田隼人


先生が指さすものをドイツ語で、いす、りんご、カーテン、これは、風

吉田瑞季「旅人のフォークロア」(引用は『本郷短歌』第五号:2016年による)

 指さされたものを順番にその言葉で言っていく授業は楽しそうだ。自分はフランス語でも英語でも、恐らくは日本語でもこういう授業を受けたことがないだけに、その明るさが一首を満たしていることにまず救われるような気持ちになる。

そのうえで、ひとつひとつ先生は指さしていく。シュトゥーレ、アプフェル、フォアハング、と、わたしも慣れないドイツ語で、同じ教室にいるつもりで発音していってみる。すると先生はふいに何もない空虚を指さす。あるいは、もうやったはずのカーテンがなびいているのをさすのだろうか。そして窓があいていることから、ふと勘のいい学生がそれに気付くのだった。「ヴィント!」風はどこまでもみどりで、目には見えないけれど、さやさやと語学初級クラスの教室に吹き込んでいる。