暮れて行く形見に残る月にさへあらぬ光をそふる秋かな

藤原定家(引用は塚本邦雄『雪月花』読売新聞社、1976年による。旧字は新字に置き換えた)

 形見のように暮れ残る月にさえ、ないはずの光が添えられる。月はもう光を失うはずなのに、秋だからなのかまだ光が残っている。それを秋が月に光を添えていると詠むところが美しい。存在しないはずの光が存在させられてしまう。言葉の魔術とも言えようし、自然の驚異とも言えよう。月にさへ、と言う言い方からは他のものにも秋はほのかな光を添えているようでもある。

くれてゆくかたみにのこるつき、とカ行音が続いて、それが「ひかり」「あき」へとつながっていく。音の上での必然性もしっかりとある一首である。