中津 昌子


「一つづつ」と決められて書く志望書の長所と短所縦長の文字

澤村斉美『夏鴉』(2008年)

 

 

職を求めて書くものだろうか。その用紙には、長所と短所を一つずつ書くように指示されている。

 

考えて書いたのだろう。書いたのち、それを眺めて思う。これがワタシ? 

たとえば、長所に誠実、と書いたとする。誠実だと人からよく言われるので一応書いてみたものの、よく考えればズルイところもあるよなー、などどいうのは誰もが思うところだろう。それに長所は短所、短所は長所の、いわば裏表のもの。生の人間の内側を、くっきり二分してそこに言葉をあてはめること、まして一つずつなどという無理ばかりが思われてくる。

 

そんな思いにいっこうお構いなく、他ならぬ自分の書いた文字が、表情もなく立っている。「縦長」がうまい。やや安定感に欠ける感じを出しつつ、この表現によって、文字に感じるよそよそしさが伝わる。

これが、自分という人間の一つの判断材料として用いられることの遠さ。選ぶ側からすれば、少しでも参考になればそれでいいのだが、そこにあらわれたギャップ。「個」と「社会」の間のギャップ。そこを素通りしないのだ。