吉川宏志(『新星十人』立風書房:1998年)
雪もその芯が埃だとしたら、美しいものは内側に汚いものを秘めているのだということになる。向井秀徳の歌で高層ビルから見て綺麗に見える海は発色した油が浮かぶ水面だという歌詞のものがあるのだけれど、そういうふうに美しいものはきっと、ものすごく近付いてみると汚いもので成り立っているのかも知れない。
そういうふうに美しいものは意外に美しくないものに支えられていると気付いてしまうと、それが世界の真理、万物を統べる原理のように思われてしまって世界そのものに失望してしまうような気分になるときがある。そんな埃を芯として生まれてくる無数の雪を見上げたら、そのままクラクラ目まいがして立っていられなくなるだろう。かくてわたしはよろめくように世界への不信をいだく。名歌「雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ」(小池光)と対にして置きたい一首である。