君が死を聞きし夜より通夜までの四日間吾に経血のあり

玉井綾子 「短歌往来」2020年12月号

人の死に対して、感情や言葉よりも前に、身体がまず反応してしまう。

訃報から通夜までの四日間、流れ続けた経血。それは、受けた衝撃の大きさの現れである。自らの意志とは関わりもなく、女としての身体が反応している。女の身体の仕組みの不思議さを思わせるとともに、なにか痛ましいような感じもする。

一首は、ただ事実だけを伝えるというかのように淡々と詠まれているが、初句「君が死を」に籠められた力はどうだ。普通なら「君の死」と言い、「死」の方が強調されるところを、「君が死」と言うことで、「君」の方が強調されている。ほかでもない「君」が死んでしまったのだから、そのショックたるや並々ではない。

 

通夜に行く地下鉄車内に目を閉じてレールのビートに君をたぐらん

「ワン、ツッ、」の君のカウント収まりしTDKのカセットテープ

ドリアンのような大学生活や三十年経てよみがえる臭気

 

13首の一連の中にはこういう歌もあった。

亡くなった「君」というのは、大学時代のバンド仲間であったらしい。「TDKのカセットテープ」というのが、今では懐かしく、〈時代〉を感じさせる。カセットテープを再生すれば、バンドをリードしていた「君」の声は当時のままなのに、もうその「君」はこの世にはいない。それを自分の中で納得するには、時間がかかったことだろう。青春時代の仲間たちとの濃厚な時間が、三十年という歳月を経て、コロナ禍の中で巻き戻される。それも、「君が死」がもたらしたものであった。