関東の冗談なのか失礼なだけかわからんけど笑わんよ

山川藍『いらっしゃい』

 

前回と同じ連作「全身が耳」からもう一首。
これも好きな歌です。
難解な雰囲気からは遠いわりに、けっこう読み解きを必要とする。

相手から何か言われて、失礼に思ったけど、冗談のつもりなのか相手はへらへらしている。
冗談だとしてもよくわかんないし、なんか感じ悪いから同調できませんよ。
なんとなく笑顔で合わせると思ってんじゃねーよ。
みたいな歌かと思います。

「関東の冗談」がやはり気になるところです。
こう言うからには、相手は(複数かもしれませんが)関東人もしくは関東地方出身者で、自分はそうではない。
ここで「関東」うんぬんが出てくることに自体に意外性があるというか、歌の言葉として出てくるのにちょっとびっくりします。
地方ごとにノリがある。関東の人はときどき関東を出してくる。
雑には雑で返すというか、これ自体けっこう雑な把握ですが、コミュニケーションの現場では思ったりすることで、わたしも人の挙動にあ、「関西」かなと思ったりすることはある。
そして、「東京」とかではないんですよね。「関東」というくくりが強い。
さらに歌集では「名古屋」が舞台になっているのですが、なんとなく、この歌の「関東」のようには「関西」が対象化されないような気がする。「関西の冗談なのか~」とは言ってこないような気がする。
すべて「気がする」というわたしの偏見のようなものなのですが、歌の言葉の現場感のゆえに、むしろハイコンテクストになっていて、書かれていないいろんな文脈を感じることができる。言葉が現場に直で通じているパワーみたいなものを感じます。

現場感でいうと、この歌、推敲して推敲してっていう雰囲気が薄いなと思います。
実際はわからないけれど、なにかバッと作ったようなオーラがある。
そういうのって歌においてはわりと多くを語ってしまって、オラッと作ったようなたたずまいにこそ得がたいものがある。
そのわりに「~なのか~だけか」とか「~わからん~笑わん」のところの音韻がくっきりできていて音数もぴったり。

最後に言えば、主題というか、言ってること自体が好きです。
一緒に笑わないことで守れるものがある。そういうのを大事にしたい。

 

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