春日 真木子 2021年「歌壇」6月号
※「時間」に「とき」のルビ
今、この一瞬一瞬が「未来の時間の最先端」であるということ。
ほんとにそうだ。籠り居の日々であればこそいっそう、「今」というこの瞬間に意識的であらねばと思う。そして、憂うること無かれ、道はやがて開かれん。落ち込んでいては始まらない。
「籠り居の日々にしあれど」の「し」は、強意の助詞。籠り居の日々、ほんとにそうなんだけど、「今の今」たった今が、未来へ向かう時間の最先端なんだよ、と自分自身に言い含めているようでもありながら、そこで終わってはいない。「今の今」で切って、一拍おいた後に来る「未来の時間の最先端よ」。それが読む者への励ましにもなっている。
コロナ禍で外に出かけることを控え、家に籠ってばかりでは気持ちも塞がってくるが、如何にそれを打開するか。塞ぎ込んでばかりはいられない。「今の今」が生きている時間の最先端であることは、コロナ禍であっても変わることはない。心を立てて、前を向いていこう。
作者は、大正15年生まれ。御年95歳。(それがどうした、と言われそうだが)
あまりにも過ぎゆく速きわが時間 節約ならず蓄へならず
ああ今日も二本の足に立ち上がり二本の手もて摑めよ自由
この精神の健やかさ。昭和と平成のすべてを経て、その間に数えきれないほどの困難をも乗り越えてきたであろう人の強さ。今日のような状況下にあってもめげてはいない。とても敵うものではないけれど、少しでも見習いたい。しなやかにしぶとく、この日々を凌いでいかねば。