人間にんげんはみな柔かに歩み居るビルデイング寒く舗道寒くして

佐藤佐太郎『地表』

 

前回は休んですみません。
ほかの仕事が重なって、ふだんの仕事も忙しく、睡眠時間がやばくなりそうだったのでそうさせてもらいました。

今日の歌は佐藤佐太郎の第六歌集『地表』から。
以前読んだとき気になっていた歌。
ビルディングや舗道の中で歩いている人間。
ソリッドなもののなかで「歩く」を見るときに、それがとても「柔か(やわらか)」であることを発見する。
「人間」てやわらかなんだ。ていうか「歩く」ってすごくない? なんであんな風に、ところどころでやわらかさを生かしながらバランスとって進んでいけるのか、考えるとすごくない?
口調がおかしくなりましたが、けっこうこんな感じの歌かなと思います。

章題は「街頭」。佐藤佐太郎は都市の中をうたったとか言われて、これも「ビルデイング」や「舗道」が出てきますが、なんというか、それによってむしろ「人間」を再発見する視線を得るのかと思います。

そしてこの「柔か」はとても説得的に感じます。

「人間はみな~」はなかなかハードル高い入り方だと思いますが、ここで見つける「柔か」はいわゆる人間的なアイデンティティも自意識も関係ない。動作を元にしながらより抽象度の高いものを見ているように感じます。

思い出すのは、ロボットなどを作るときに「歩く」とか「階段を上る」とかってけっこう難しいらしいですね。将棋などはいくらでも強くなれるけど、二本足でスムーズに歩くのは難しい。
だからそれのほうが人間の得意な、特徴的なことなのかもしれない。この歌、普通に目にしたものに取材しているように見えるけど、思考の筋道としてはそっち、ロボット研究者みたいなほうに近づいているようにも思います。

歌集で続く歌はこんな感じ。

 

てのひらを人に見しむること勿れ冬の夜霧にぬれてゆく吾

 

たえまなくネオンのほのおたつ道にたまたま犬の歩むは寂し

 

一首目の気になる箴言風の上句、二首目の「たまたま」とか面白いです。

 

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