垂り出づる何の脂か蒸しあつき夜にかがやきを含みたり見ゆ

玉城徹『樛木』

 

前回の歌を引くため『樛木』をぱらぱらめくっていると、
いい感じの、惹かれる歌がたくさんありました。
今日のはそのうちの一首。

蒸し暑い夜に何かの脂(あぶら)が垂れてきた、というだけなわけですけど、
歌がパワフルで豊かな感じがします。

何の脂なのか。
章題が「大いなる枝を見上げて」なのもあり、樹木の脂を想像します。
わたしは樹木に関して無知なので、垂れてきたりするものなのかもよくわからないのですが。
かぶと虫とかいそうな、太い樹が蒸し暑い夜にクローズアップされているのを想像します。
油、高濃縮のべっとりした液体がにじみ出すように、かがやきを内に秘めながら垂れてくる。
そのエネルギーの流動みたいなものが詠われている。という感じかと思われます。

とはいえ、「何の脂か」と言ってるわけだから、何の脂かはわからない。
「蒸し暑い夜にかがやきを含んだそれ」というように、暗示的な言い方がなされている。この暗示性によって、それに山括弧が付くように広がってくるというか、<力>とか<流動>みたいなニュアンスが生じてくる。

それでこの歌はこのノリのまま一気に押し切る。その自信とか信頼のようなものにぐっときます。

韻律の強さを感じますが、語法的に一番特徴的なのは結句でしょうか。

「含みたり見ゆ」
「含みたる見ゆ」じゃない。
かがやきを含んでいるものが見える、ではなくて、
(それは)かがやきを含んでいる。見える。
ここがかっこいい。
「含みたる見ゆ」だと、もごもごと思わせぶりになる気がします。

歌集の中で続く二首がこちら。

 

ぬばたまの夜空わたらふとどろきは裂くるが如きひびきまじへつ

 

大いなる枝いだせれば見上げたり黒々として葉むらしげれり

 

今日の歌を含めた三首で「大いなる枝」を持つ樹を詠んでいるのかと思いました。
「夜空わたらふとどろき」「裂くるが如きひびき」は、雷のようにも見えるけど、樹のパワーをそのまま写すようなことを試みているのかなと。
中では今日の歌が一番好きです。

夏っぽい。

 

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