仲田有里『マヨネーズ』
「会いたい」歌、いろいろあると思うのですが、
中で印象に残っている歌です。
自分の手の指先のことだと思う。
暗いところで指先が見えなくなると会いたくなる。
これのわかるような、わからないようなところが好きです。
わたしはわりとわからない。
歌にはなんとなく訥々とした印象があって、なにかこう、話をこっちが聞いたほうがいいような気がしてきます。
「指先なんだ」
「うん」
みたいな対話を歌と交わしているような気になってくる。
「暗いところで心細くなると、みたいな」
「ちょっと違う」
けっこう不思議なところのある歌だと思います。
「夜空」で指先が見えなくなるのかな、とか、手が全部見えなくなったらどうなのかとか、疑問も浮かんでくる。
そのへんの情報の不備(?)によってむしろ、歌がするっと流せないものになっている。
で、そういう情報の不備によって「読ませる」ということもたぶん短歌のテクニックみたいなものになってしまっていると思うのですが、意外とテクっぽいのとテクっぽくないのは見分けがつくような気がします。
そして、これはやはりあまりテクっぽくないように感じる。
訥々とした感じっていうのが、文体に写せてるように思える。
<雰囲気>が文体に写っていると、歌に書いてないことが気配として伝わるんですよね。
「会いたく思」ってもその後にメールするわけじゃないんだろうな、とか、そういうことが。
夜空とか映画館の中で一人になり、じっと会いたいと思っている。
とても漠然とした世界の中で会いたいという心を不思議なものとして持っている。
そういうあり方に惹かれるところがある。