山本枝里子 『無人駅』 ながらみ書房 2021年
水まきをした後、ホースを巻き取って片づける。
その時、ホースの中に残っていた水がホースの先を思いがけない勢いで動かして、シュポポと飛び出す。巻き取られるホースの動きと勢いよく飛び出す水が目に浮かぶようだ。ホースを片づけながら、びしょ濡れになった経験がある人もけっこういることだろう。
「ホースリール回せばシュポポはね返り」の、言葉の弾み。「シュポポ」という擬音語の面白さ。夏の暮れ方の、水のきらめきまで感じられる。
マヨネーズの空気プシュッと抜くごとしエレベーターで屋上に出る
マヨネーズの容器を立てて、中の空気をプシュッと抜く。
これは比喩。次に何が出てくるかと思えば、「エレベーターで屋上に出る」だ。プシュッと抜かれたマヨネーズの空気のように、エレベーターで屋上に出る。その時、まさかプシュッと音はしなかっただろうが、ビルの中をエレベーターで突き抜けて、勢いよく屋上に出た、といった感じが面白い。マンガみたいだ。
この歌でも、「プシュッ」という擬音語が効いている。
食欲のさえざえとして真夜中にくおーくおーと腹の鳴るおと
真夜中の食欲。もう寝る時間だというのに、食欲が妙にさえざえとして、そのうえ「くおーくおー」と腹まで鳴るのでは、困ったことだろう。
食欲が「さえざえとして」という表現の面白さ。目がさえざえとして眠れないのと同様、食欲もさえざえとして眠気どころではない。そして、「くおーくおー」と腹が鳴る音。「くおーくおー」は「食おう食おう」でもあるか。腹の要求は止まないのである。「くおーくおー」とひらがな表記にしているのも、そういうことかと納得した。