永井 祐


はるかにて互みに昨夜よべの雪をいふ根雪にとほきわが海の雪

山中智恵子『みずかありなむ』

 

電話してる歌なのかなと思いました。
シチュエーションを決めていかなくてもいいという話もありますが、
「互に」は「かたみに」と読んで、「お互いに」という意味。
「はるかにて」はだから、お互いにはるかに遠い場所にいて、そうして昨日の夜の雪のことを言い合っている。
はるかな距離にいるけれど、おしゃべりはできる。
おしゃべりはできるけれど、お互いの「雪」はちがっている。
わたしの「雪」は「根雪にとほきわが海の雪」。

「根雪」とは「解けないうちに雪がさらに降り積もって、雪解けの時期まで残る下積みの雪」。気象庁的にはシンプルに長期積雪のことを言うそうです。
この場合は、とにかく降ってからずっと長いあいだ解けないで、その上にもっと降り積もっていくような雪を言っているのかと思います。

「海の雪」はそれと対照的に出てきて、積もることなく海面まで降ってきて一瞬で消える雪ということだと思います。
直接そう言っていないけれど、お互いに言ったそれぞれの「雪」は、あなたは「根雪」でわたしは「海の雪」、そのはるかな距離ということを言っているのかと思います。
日本だと地方ごとに雪の降り方は大きく違い、雪と暮らしのあり方、雪と人の関係もだいぶ違う。雨とか月はそれほど違わないけど雪は違う。そういうことも歌の下敷きにあるような気がします。

そして最終的に焦点が合うのは「海の雪」のほう。根雪と比べるものとして、昼頃には解けてしまうような雪ではなくて、一瞬すら残ることのない「海の雪」。
電話でおしゃべりしていても、届くことはないずっと奥のほうで降っているわたしの海の雪。
わたしはこんな感じのイメージで読みました。

歌集では次の歌が少し続きみたいになっています。

 

めつむれば沖漕ぐ船のひともしてひえびえとわたるたましひの凪

 

目をつむると、海があって灯りをともした船が沖をわたっていく。それは魂の凪の中をわたっていくのだ。という歌。
目をつむると見えて、「たましひ」と一緒に凪いだり波立ったりする海は、「わが海の雪」の海とほとんど似たものなのかと思います。
この歌だと暗い夜の広い沖が見え、灯りをともしている船はなんとなく一艘だけ心細く渡っているような景色が浮かびます。