花山 周子 「現代短歌」2022 №88 現代短歌社 2021年11月刊
「筋力 二〇二一年八月~十月」24首より。
時の流れに逆らうためには筋力が要る。
コロナ禍のなかで自粛生活が続き、どうしても運動不足になりがちだ。この流れに逆らい、コロナの後も力強く生き抜いてゆくには、まずは筋力アップが必要だと思ったのか。
ジムなどに行けばお金がかかるから、近くの公園あたりで、鉄棒にぶら下がる。懸垂でもする。
鉄棒から離した手のひらを嗅げば、鉄棒の鉄の匂いが移っている。手のひらについた鉄の匂いを確認したのち、再び筋力アップに励む。
それが、今できる「明日のための、その1」だ。
リモートだ、オンラインだ、で人との接触が極端に減ったなかでは、自分の存在感もどことなく稀薄になり、自分の身体を確かめたくもなる。
「時の流れにさからうための」ボディ。
「鉄の匂いをつけて」は、そのボディ(生身の肉体)に鉄の匂いをわざわざつけているような感じだ。鉄の匂いをつけたって鉄にはなれないが、鉄のような強さを身につけたい。ちょっとやそっとでは負けないような鉄腕を手に入れたい。これから先を生きる力をつけておかねば。
草原に風を吹かせる太陽を見てみたい黒く疲労してゆく
飛行機は未確認飛行物体よりも美しく懐かしい光 夕闇に来る
向いていない向いていないと思いつつすることばかり 暗くなりゆく
長く続くコロナ禍のなかで、疲労は極点に達している。「向いていない」と思いつつすることばかりが増えて、自分が本来やりたいこととは違うことを強いられているという思い。
草原に風を吹かせる太陽を見たのはいつのことだったか。もう久しく見ていないような気がする。
コロナの前にはあんなに頻繁に飛び交っていた飛行機も見る機会が減ってしまった。未確認飛行物体なんてどうでもいい。今、夕闇を来る飛行機の、なんと美しく懐かしいことか。
暗い世界のなかで光を求め、筋トレに明日を生きる力をつけようとするあなた、「あしたのジョー」よ。