山下 翔


缶コーヒーのポイントシールを携帯に貼りながら君がしゃべり続ける

永井祐『日本の中でたのしく暮らす』(BookPark、2012年)

 

『日本の中でたのしく暮らす』を読むとむかしの本だなあとおもう。ことばが、書かれてあることが、そこにある雰囲気が空気がむかしだなあ、古いなあとおもう。それがかえって新鮮にうつる。時をこえて、普遍性へなびいていかないところに特徴がある。あのとき、あの場所で、あんなふうにいたわけではないわたしは、そのむかしのこと、古いことを懐かしむことができない。それでもきわめて精妙に〈あの頃〉が保存されているように感ずる。

 

缶コーヒーのポイントシール。あったあった。台紙に貼り付けて送ると景品かなにか当たるやつ。何枚も何枚もシールを集める。そのためにコーヒーを飲む。今なんにでも2次元バーコードがプリントしてあるように、いろんなものにポイントシールがぺたぺた貼ってあった。

 

この携帯というのも、今のいわゆるスマートフォンとはちがって旧式のものである。タブレットやノートパソコン、スマホでもそうだが、そういうつるつるの機器にシールを貼るというのは今でもある。でもセンスがまるで違うようにおもう。「着メロ」も「メール」も「メアド」も、それがあったころの人と人との距離感も関係性も、「君がしゃべり続ける」その感じも、遠いものになってしまった、そのことが、ここにはっきりと立ち上がる。

 

帰ったら台紙に貼りかえるのか、あるいはなんとなく貼ってとっておくのか。だれか集めている友達がいるのか、デコレーションなのか。いろいろ思い浮かべてみる。さまざまなことがポイントポイントとなりアプリアプリとなるまえの、ポイントがシールであったころの、ポイントと人との関係をおもう。そして人と人との関係をおもう。インスタに写真をあげながら君がしゃべり続ける、みたいな場面を想像しながら。