岡井隆『静かな生活』(ふらんす堂、2011年)
夕方すこし眠ってこれを書いている。覚めてからの数時間だけがほんとうに頭のはたらく時間で、あとは創造的なことはなにもできない。そういうことに気づいてから、眠いときには寝る、というのをできるだけ守るようになった。
「眠りこそ人生なのだ」という箴言はいかにも岡井調で、そのとり方はさまざまあろうかとおもう。いずれ人はながいながい眠りにつくのだから、そのために、人生における眠りというものがあるなんて話もある。わたしにとってはたとえば眠りののちのわずかな時間だけが人としてのゆたかな時間であって、そのための大部分は眠りにあり、眠りのためにある——そういうことを今はおもう。まこと「眠りこそ人生」である。
一冊は短歌日記というかたちをとっており、このうたには1/16という日付と、「結社とふやしろの森や寒詣」という句が添う。眠りというのは裏でありながら、そのじつ表なんだよ、ということなのかもしれない。
五七・五七・七という万葉のころからの調子をここ数年親しくおもっている。上の句/下の句という概念よりもむかしの息づかいである。「こそ」「べし」もさることながら、集中を、の「を」に力漲る。夕つ方の〈覚め〉へむけて、こころ集めて眠らんとする、精神の冴えのようなものを感ずる一首だ。