高橋千恵『ホタルがいるよ』(六花書林、2020年)
服を着るのがいやなので、年中Tシャツと半ズボンでとおしている。服にしめつけられる感じというか、覆われる感じが苦手なのだ。いつからそうなったのか、体がおおきくなったこととも無縁ではないだろう。以来、衣替えという行事からも遠のいてしまった。
「おとうと」が実家に帰ってきて、春服を夏服にとりかえる。衣替えの風景である。わたしがこどもの頃は、天袋に段ボールが詰めてあって、それをおろして衣替えしていた。この「おとうと」の場合は、ふだん実家に服を置いておいて、季節ごとにこうしてとりかえにくるのだろう。実家はでっかい天袋、という感じである。
「ドラムバッグ」というのがいい。ドラム缶の「ドラム」である。樽のような筒状のバッグで、服がたくさん詰められる。
あるいは「ドラム」は、楽器のドラム(洋風の太鼓)でもあるから、それを入れるためのバッグ、とおもって想像してみることもできる。そこにはふだん楽器がはいっているわけで、「春服」がでてくるさまは、さながら、口から万国旗つらなりいずるマジックのようでもある。ほのかなはなやぎがある。明るい光景である。
夏服を「詰め込んでゆく」であるから、きちんとたたんで、というよりは、いいかげんに詰めていく感じだろう。このあたりも、ごく自然なふるまいというか、おのずから「おとうと」のキャラクターがにじむようだ。実家だからこその距離感というのもあろう。そのあたりもふくめて、どこかまぶしい場面である。