三枝昂之『遅速あり』砂子屋書房,2019
「一枚の永遠」。おそらくは写真のことなのでしょう。
もしかすると「はにかむ」誰かを描いた肖像画かもしれないし、その様子を彷彿とさせられるような日常のかけらかもしれない。
初夏の木蔭のもとで、恥じらいと微笑みをたたえて〈私〉の視線を促す「ひとり」。
例えばシェイクスピアのソネットの中でももっとも有名な18番、「Shall I compare thee to a summer’s day?」で始まる章が、最後に
So long as men can breathe or eyes can see,
So long lives this, and this gives life to thee
というフレーズで綴じられるように、「はにかむひとり」に対して「永遠」を与えているのは、じつはその写真ではなく、この歌そのものであるということ。穏やかにその存在に光りを当てているのです。
語り手の発話の中にこそ「永遠」が存在する、ということを知りつくした、あたたかな視線が、木漏れ日のようにこぼれてくる。
「はつなつ」と「はにかむ」、「みどり」と「ひとり」の音韻は、葉擦れのさやさやを耳で拾ったときのような心地よさを感じさせます。
そうして、そういえば、写真や紙の数え方には「葉」を使うのだった、ということを思い出したのでした。ふと。