台風が逸れたらしいというニュース逸れた先にも住むひとはいて

関琴枝『手荷物ふたつ』砂子屋書房,2018.10

 

最近、しばしば耳にする「台風」のニュース。

 

「台風が逸れたらしいというニュース」を耳にしたわたしたちはほっと胸を撫で下ろし、

来るべき不安や厄災や非日常から逃れられて、そしてすぐにそのことをわすれてしまう。

その「先」のことを、語り手はそっと焦点を当てて、言いさしのまま、それらの景は綴じられる。

 

目を逸らしてしまいがちな、あるいは認識することさえできていなかった声なき声を、作中の主体はまっすぐにまなざし、語り手は指し示す。

わたしたちの、いつのまにかに逸らしていた視線こそが、その台風の禍々しい様子と重なり合うようです。

そのことに気がついたとき、なんだかいたたまれなくなる。

 

責めもせず、諌めもせず、ただそこにそうあるという新しい視線を差し出すこと。

歌の底力のようなものを感じた一首でした。

 

この連休にも、台風のうわさが流れている。どうかできるかぎり穏やかな日々のつづきますように。

 

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