鍋島恵子「偽物のたまご」『短歌』,2021.01
「食卓」という、生活の匂いのする光景を詠っているはずなのに、不思議とそれを感じさせない、うつくしい一首。
「食卓におく箸置き」という、マトリョーシカのような見た目の語りはじめから、
「星として」というひらけた、うつくしい比喩へと繋ぐ語り手。
つづく下の句ではさらにその視野をひろげて、「日々の食事は流星として」、
永い時間をまなざす、神のような視点をももっていることがわかります。
「箸置き」という、それ以外には用途の見つからないちいさな存在に目を向け、
それを「星」と喩えることで、とたんその存在が煌めきだす。
それと同時に、「食卓」を夜空に見立てていることに対する驚きが生まれます。
さらに、その夜空に展開されてゆく「日々の食事」を「流星」へと、景をスライドさせてゆくことで、
なんの変哲もないはずの「箸置き」が、じつは永年のなかで定点のような役割を果たしていることにも気がつくでしょう。
「生活」というもの、そのものが、一瞬きらめきをはらむことを思い出させてくれる、ハッとさせられる歌です。