星に星のふるへつたはり手のなかの万年筆をかちりと閉めつ

横山未来子『とく来りませ』砂子屋書房,2021.03

 

指揮者の最後の一振りのような、荘厳さから静けさへの変遷が見事な一首。

 

語りだしが「星に星の」。煌めきの二乗を用いて表されているのは、その「ふるへ」。

「星のふるへ」というと、漁り火のように、ひかりが遠くで震えているように見える状態を思い浮かべます。

 

これは実際の現象としてではなく、あくまで言葉通りに受け取った場合。

星震学に関する知識のあってもなくとも、この歌はふしぎな景をわたしたちに差し出してくれる。

その「星のふるへ」が作中主体に「つたは」ったところで、物語は下の句へと展開されてゆきます。

 

上の句で生み出した美しく神秘的な星空を、作中の〈私〉の「手のなか」へと招く語り手。

そしてその手にある「万年筆をかちりと閉め」ることで、物語は余韻とともにとじられる。

この、物語の「展いて綴じる」までの一連の流れが、おどろくほどすみやかに、なだらかに進んでいることに気がつくでしょう。

 

まるで星空をまるごと、一本の万年筆の中に閉じ込めるようなしぐさ。

このとき、万年筆の「万年」の文字が、言葉のうえでよりいっそう煌めくもののように感じられます。

 

「星に星のふるへつたは」ることで、「万年筆をかちりと閉め」る、というように、

行動の理由にふしぎな因果を持ち込んでいるのも面白く、

まるでこの〈私〉は、かみさまの化身のよう。

これは冒頭の、「指揮者」という第一印象とも重なって、

「かちり」という音は、この世界をおさめるオノマトペであるかのように耳に残るのです。

 

 

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