竹中優子『輪をつくる』KADOKAWA,2021.10
そんなわけがないでしょう、と、思わず、
心ががたっと立ち上がるような、それなのにふしぎと静かな一首。
上の句、「体調が悪くて休むと言った人が」。
語り手は「体調が」、「言った人が」と、連続使用を避けるべきとされる「が」を敢えて繰り返し用いています。
すると読み上げるうえで、「が」の直前の「体調」と「人」がそのつど強調され、どことなく嫌味な口調が耳に残るよう。
そして下の句、「ふつうに働いている午後の時間」。
「体調が悪くて休むと言った人が」、「ふつうに」、「働いている」……わけないでしょう。
それになんだか、言葉が多い……。句切れを意識してみると、
ふつうに/働いている/午後の時間……4音・7音・6音と、明らかに余計な4音、「ふつうに」が差し込まれているのがわかります。
そうして内容に目を向けると、やっぱり「ふつうに」に引っかかる。
どこかでこの「ふつうに」に余計なひとこと、つまるところ悪意を感じさせるような、巧みなつくり。
さらに、いまいちど読み返すと、初句以外のすべてが字余りになっていることに気がつきます。
途中で明らかに余計な「ふつうに」を挟みこむことで、やや早口で語る語り手の、小言のような調子まで彷彿とさせられるよう。
冒頭の「ふしぎと静か」な印象も、おそらくはここから来ているのでしょう。
「ふつうに」を強いる世界のことを、ふと立ち止まって考えさせるような、辛辣な現代の社会詠と唸りました。