「俺ノ魚ヲ食ッテミロ、でございます」と店員は電話取つたら言ふのだらうか

小潟水脈『時時淡譚』(ながらみ書房、2019年)

 

ひとつまえに、

 

「俺の魚を食ってみろ!!神田本店」書き留めて今出た改札口を入りゆく

 

という一首があって、それを受けて今日の一首である。

 

じっさい、「俺の魚を食ってみろ!!神田本店」というのが存在する(食べログのページ)。それはそうと、看板かなにかをみて、とっさにその店名を書き留めた。たしかに人を食ったような店名で、振り返ってもういちど見てしまいそうな名前である。

 

しかしそのためだけに、わざわざ改札をいちど出たのだろうか。このあたり、すでにおかしいのだが、そこから更にうたは想像する。お店に電話をかける。プルプル、プルプル。どうでるか。むろん「俺の魚を食ってみろ!!神田本店、ヤマシタでございます」とかなんとか、ごく自然に答えるのである。

 

だからこっちがおもっているほどの反応は期待できないのだが、しかしじゃあお前もやってみろ、と言われると一瞬たじろぐ。電話先のお客さま(?)に向かって「俺の魚を食ってみろ!!」……である。

 

「俺ノ魚ヲ食ッテミロ」というあやしい表記には、そのあたり、自分なりに想像してみて、なかなかうまく想像できない、どこか恥ずかしいところがある、そのようなわたしの姿があらわれている。

 

「俺ノ魚ヲ食ッテミロ、/でございます」と/店員は/電話取つたら/言ふのだらうか

 

という切り方も考えられるが(ひとつ前と同じような切り方)、わたしとしては

 

「俺ノ魚ヲ/食ッテミロ、で/ございます」と/店員は電話取つたら/言ふのだらうか

 

のほうを採りたい。四句のがちゃがちゃした感じが、想像のスピードや、電話口の(想像上の)雰囲気をよくあらわしているようにおもう。

 

このおもしろがりかたを嫌味にとるむきもあるとおもうが、深夜歌集を読みながら大笑いした一首。

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