今紺しだ「動点Pの冒険」『短歌』,2022.11
今年の角川短歌賞の佳作から。
「また君を撃ってしまった」と、告解のような語りをはじめる語り手。
モノローグとも対話ともつかない、不思議な発話です。
「また」とあるので、ここに悔いや自身に対する呆れ、そういった負の感情を添わせているようでもあります。
撃つ、というのは比喩であるということを予感しつつ、その内実は、「正論で築いた城に今も暮らして」。
「君」との間に、鋭い言葉での応酬があったのだと、わたしたちはここでやっと理解します。
わたし自身も心に「城」のあるからよくわかる。
そこを、荒らされるわけにはいかないのだ。
一歩でも土足で踏み込もうとするものなら、マシンガンなり何なりで〈敵〉を排さねばならない。
それがたとえ「君」と呼ぶほどの、近しいひとであったとしても。
いつかは「城」から自身を解放して、あるいは「城」そのものを開放させて、
「正論」に依らない交流を積まねばならないということは、とうにわかっているというのに。
やや恣意的な、あるいは感情的な読みを持ち出しているやもしれません。
この作者によるほかの作品も、言葉のもとからもつ資質を拾い上げ、
ひかりを当ててゆくような仕草の光る作品にこころの動かされました。
下記にいくつかを。
大学芋おいしいよねと学食の透明パネル隔てて笑う
ほがらかなひとと歩けば惜しみなく銀杏並木の手放す光
筆圧の強いあなたの論証に日が差して黒鉛が煌めく